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2015/07/30

長崎弁の話 その17。 ~夏場ならでは?「ぬっか」という方言~

昨日、九州北部地方もついに梅雨明けが発表されましたね。

今でも気温が高い日が続いていますが、夏はまだまだこれから。僕が住んでいる佐世保の今日の天気は、晴れ。いつものように職場へ向かおうと家のドアを開け、外に出て思わずつぶやいたひとこと。

「今日もぬっかねー…」

この季節になると、「ぬっか」ということばをあちこちで耳にするようになります。日常の会話が、まずこのひとことから始まる、なんてこともよくあります。


 「朝からぬっかですね」(朝から暑いですね)

「ぬっかね~、夏の畑仕事はだんじゃなかよ」 (暑いねー、夏の畑仕事は大変だよ)


…といった感じです。
 
「ぬっか」は、長崎で使われる方言なのですが、「暑い」という意味で使われます。長崎に住んでいる方なら、ついつい口に出してしまったり、心の中で浮かぶことばではないでしょうか。

ちなみに、「ぬっか」にはちょっと違う意味があります。「暖かい」という意味でも使われることがあるんです。 たとえば、「こたつん中のぬっかね」という場合。この文章を標準語にすると、「こたつの中が暖かいね」となります。冬場や春先の「ぬっか」はこの意味の場合がほとんどだと思います。

「暑い」と「暖かい」。意味はそれぞれ異なりますが、どちらも「ぬっか」ということばで表現するところに方言の面白さを感じます。

もちろん、方言以外にも身近なことばに考えをめぐらせてみるのも、やってみると新しい気づきがありますよ。

2015/07/10

長崎弁の話 その16。 ~忙しいとついつい使ってしまう?長崎の方言「だんじゃなか」~

当ブログですが、現在は月2回のペースで更新しています。先月は主に仕事で忙しくなったこともあり、「6月は1回しか更新していないのでは…?」と思っていたら2回の更新。相変わらず地味に続いています。

更新は続いているものの、「次はどんな長崎の方言をチョイスしよう?いや、そろそろ次は話題を変えようか?」と考える時間は7月に入ってからもあまりなく、次の内容を決めかねている状態で飛び出した一言。

「まだ何ば書こうか考えるだんじゃなかね~…」

「だんじゃなか…?って長崎弁たい!今回はこれにしよう!」ということで何とテーマが決定。
今回は「だんじゃなか」ということばを紹介します。 ということで、まさかまさかの完全に思いつき(!)です。

さて、このことばは「~をする状態ではない」という使い方をしたり、「大変だ」とか「忙しい」という意味合いで使われたりします。

なので、上のテーマ決定のきっかけになった一言を標準語にすると、「まだ何を書こうか考える状態ではないな~…」となります。

「だんじゃなか」は下のようなやり取りで耳にすることも…?たとえば…


母:「宿題はもう済んだと?」(宿題はもう済んだの?)

子:「いや、まだいっちょんしとらん!」(いや、まだ全然してない!)

母:「宿題ばしとらんとにゲームばしよるだんじゃなか!」 (宿題をしてないのにゲームをしている場合じゃないでしょ!)

子:「えー、あとちょっとけん待ってさ!」(えー、あとちょっとだから待ってよ!)

母:「よかけんはよ宿題ばせんねー!」(いいから早く宿題をしなさいー!)


…といったやり取りの中で出てきたり、ちょっとした雑談の中で出てきたり…。「だんじゃなか」は、日常の会話でもたまに耳にしたり使ったりすることのあることばですが、仕事の繁忙期などの理由で忙しくなると、その頻度が増えることがあるかもしれません。「忙しいから、ついつい使ってしまう…」なんてことも。

ということで、今回もまた長崎弁の話でした。そろそろ長崎弁以外の話題も、ですね。

2015/06/27

長崎弁の話 その15。 ~電話に出らん…?・後編~

前回の続きになる、長崎弁の話。「出る」という動詞の活用形(未然形)が「出らん」という独特な変化をすることを紹介しました。そして、他の活用形でも長崎方言特有の変化があることにも触れたところで、前編は終了しました。今回は、後編です。

早速、ちょっとしたやり取りを例に紹介していきます。


A:「集合時間になったけど、C君がまだ来ないね。連絡はあった?」

B:「さっきも電話したばってん、いっちょん電話に出らんばい。」

 (ここまで、前回のやり取りと同じです)

A:「一体どうしたのかな、とりあえずもう少し待ってみよう。」

20分後…

C:「遅くなってごめん!寝坊してしまった!」

B:「なんやー、心配したばい。それに電話ぐらい出れさー。」(何だー、心配したよ。それに電話ぐらい出ろよー。 )

A:「僕も心配したよ。でもこれで何とか電車には乗り遅れずに済むね。」


それでは、今回もB君の一言に注目。命令形の活用が標準語と異なっていますね。長崎の方言では、「出ろ」ではなく「出れ」という活用になるのです。

他にも、「着る」、「起きる」、「見る」などでもやはり同様の現象が起こり、「着る」→「着れ」、「起きる」→「起きれ」、「見る」→「見れ」となります。

さて、前回と今回紹介している動詞の活用形の変化ですが、これは一部の動詞でしかみられないということも話しました。では、一体どんな動詞が当てはまるのかというと…

たとえば、先ほど紹介した「着る」。これは当てはまるのですが、同音異義語の「切る」はそれが当てはまらないのです。一体なぜか。「着る」と「切る」の活用の違いが重要なポイントになります。

その違いについてみていくと、「着る」の活用は「上一段活用」ですが、「切る」の活用は「五段活用」です。「切る」の未然形は「切らん」、命令形は「切れ」となります。さて、ここで思い出して下さい。長崎の方言では、「着る」の未然形が「着らん」、命令形が「着れ」になります。つまり、「着る」の未然形と命令形における活用が、「切る」の活用と全く同じになるのです。

文法的な言い方をすると、「上下一段活用の動詞での活用が、未然形と命令形でラ行五段活用になる」のです。これは、「一段活用のラ行五段活用化」と呼ばれるものです。

「出ん」が「出らん」という変化をするため、単純に未然形が「ん」ではなく「らん」を用いるだけかと思っていたら、調べてみると文法的にきちんと説明ができるとは…!方言、そしてことばの奥深さを改めて感じることになりました。

これまでの長崎弁の話の中でも最もマニアックな内容になりましたが、長崎の方言は調べてみると興味深い発見があります。皆さんも気になったことばがあれば、楽しく調べてみてはいかがでしょうか。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p15.

2015/06/17

長崎弁の話 その14。 ~電話に出らん…?・前編~

かなり間隔が空いての更新…。やや放置気味になってしまいすみません。

普段から何気なく使っていることばが、実は方言だった!ということに気付くたびに長崎の方言についてますます知りたくなる自分。それだけ普段から長崎弁に慣れ親しんでいるということかもしれません。

さて最近、ちょっと変わった特徴があることばの存在を知り、調べてみると文法的に興味深い内容だったので、今回はそれについて話します。

今回紹介するのは、「出る」ということばです。いたって標準語です。それに、長崎では異なる意味で使われるというわけでもないのですが、ある変化が特徴的なのです。今回は短い会話を例に説明します。


A:「集合時間になったけど、C君がまだ来ないね。連絡はあった?」

B:「さっきも電話したばってん、いっちょん電話に出らんばい。」(さっきも電話したけれど、まったく電話に出ないよ。)


さて、ここでB君の一言にご注目。かすかに違和感があるような…?ちょっと考えてみましょう。
文法的な話をしますが、動作の打消を表す助動詞(口語)には「ない」・「む(ん)」・「まい」があります。そして、これらの助動詞は、動詞の未然形に付きます。

ということは、標準語ならば「出ん」という活用になるはず。ところが、先ほどの会話では「出らん」という活用になっています。そう、これが長崎弁の特徴のひとつ。一部の動詞で、活用形によって活用が変わる現象がみられるのです。

ちなみに、「出る」の他には「着る」、「起きる」といった動詞などでも同じ現象がみられ、「着る」→「着らん」、「起きる」→「起きらん」、という活用になります。

ちょっと不思議な活用の変化ですが、「出る」や「着る」、そして「起きる」などの動詞は未然形以外でも特徴的な変化をします。一体どう変化するのか、ということについてはまた次回話したいと思います。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p15.

2015/05/24

長崎弁の話 その13。 ~「すーすーする」ってどういう状態??~

5月下旬の長崎。あちらこちらでアジサイがまちを彩り始め、いよいよ夏が訪れようとしています。衣替えを済ませた人も、きっとたくさんいるはず。

それでも、朝はまだ「すーすーする」日が続いています。目を覚ました時の最初のひとことが、「あー、何かすーすーする」なんてことも。

ということで、突然謎のことばが登場しました。「すーすーする」って…?何かの擬音語のようですが、これも長崎で耳にすることばの一つ。

「すーすーする」は、風が吹いて肌寒い様子を表すときに使います。気のせいかもしれませんが、5月頃や9〜10月頃には耳にする機会が多いことばです。

ということで、今回は久々の長崎弁の話でした!
朝「すーすーする」日はもう少し続きそうですので、どうか体調を崩されないようお過ごし下さいね。

2015/04/02

長崎弁の話 その12。 ~長崎で、「つー」というと?~

最近、「県外の方が一度聞いただけでは意味が全く想像できないような長崎の方言には何があるだろう?」ということを考えていたのですが、そのとき真っ先にこのことばが浮かびました。

「つー」ということば。皆さんはご存じでしょうか?これも、ちゃんとした長崎の方言です。
たとえば、「転んで擦りむいたところにつーのできた」というような使い方をします。たぶん、この例文で意味が分かったのではと思います。

長崎の方言で「つー」とは、「かさぶた」のこと。長崎県外の方が耳にされるとかなり驚かれそうなことばです。

ここからは僕も初めて知ったのですが、「つー」には他にも意味があります。
(柿などの)ヘタや、鱗のことも「つー」と呼ぶ、のだそうです。僕自身は、「つー」を「かさぶた」という意味でしか会話の中で用いたことがなかったので、この気づきはかなり新鮮でした。

ところで、「つー」で思い出したのですが、長崎ではアイゴという魚のことを「ヤー」と呼びます。
釣りをされている方に、「今日はヤーしか釣れんばい」と言われたら、その魚はアイゴのことです。

ちなみに、長崎では他にも、「バリ」や「ヤノウオ」と呼んだりもします。魚の呼び方も色々あってなかなか興味深いですね。

「つー」と「ヤー」。短いことばですがなかなかインパクトのある方言です。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p157.

2015/03/15

長崎弁の話 その11。 ~オノマトペのような長崎のことば「えんえん」~

約1ヶ月ぶりの更新になってしまいました。前回の更新以降、ブログを書く時間をなかなか確保できずにいましたが、また色々書き始めています。さて、今回は長崎弁の話をします。

ある日、長崎の実家へ帰っていた時のこと。家族で食事に行った後の帰り道でのやりとり(もちろん長崎弁ですよ!)。


僕:「僕が子供ん頃は家の近くばよく散歩しよったね」

父:「そうねー、よう一緒に歩いてたな。お前が子供ん頃、父さんは『えんえんして』ってあんまり言われんやったぞ」

僕:「本当ね?子供の頃のことけんがほとんど覚えとらん」

母:「お父さんがえんえんしたりとんきゃんきゃんしながら帰ってきたところはあんまり見たことなかよ」

僕:「へー、そうやったとねー…」


このやり取りの中に、今回紹介することばがあります。そのことばは、「えんえん」。まるでオノマトペのようなことばですが、そうではありません。一体どういう意味か、まずは上の会話をヒントに考えてみて下さいね。

…と言われても何のことかさっぱり、という方は、以前紹介した長崎のことば(「ずっきゃんきゃん」)をヒントに考えたらお分かりになるかもしれません。

さて、「えんえん」の意味は分かりましたか?


長崎のことばで「えんえん」は、「おんぶ」のことをいいます!「おんぶ」という言葉は、「背負う」の幼児語です。何と、長崎弁の語彙にも幼児語があるんですね。これは僕自身にとっても意外な気づきでした。

ちなみに、上のやり取りを標準語にすると…


僕:「僕が子供の頃は家の近くをよく散歩していたね」

父:「そうだね、よく一緒に歩いてたな。お前が子供の頃、父さんは『おんぶして』ってあんまり言われなかったぞ」

僕:「本当?子供の頃のことだからほとんど覚えてない」

母:「お父さんがおんぶしたり肩車しながら帰ってきたところはあんまり見たことないよ」

僕:「へー、そうだったのね…」


という会話になります。

「えんえん」ということばは、僕が子供の頃、主に両親や祖父母との会話で耳にしたり使ったりしていましたが、今は耳にする機会も使う場面もほとんどなくなってしまいました。「えんえん」の他には、「とんきゃんきゃん」もそうです。そのためかもしれませんが、この2つのことばには、どこか懐かしい響きがするのです。

今回のブログを書いていて、昔は使っていたけれど、今はほとんど使うことがなくなったことばにも、またいつか触れてみたいなと思うようになりました。機会があれば、また紹介します。

2015/02/08

長崎弁の話 その10。 ~僕が思う長崎弁の魅力~

今回で長崎弁の話は、何と第10回目!現在のところ、話題の約半分以上が長崎弁というちょっと変わったブログですが、ここまで続けて来れました。

これまでの「長崎弁の話」シリーズでは、主に長崎弁の語彙や文法的な事柄について話してきました。ただ、その一方で「僕自身が思う、長崎のことばの魅力をあまり語れていないのでは…?」ということを最近感じていました。

そこでシリーズ10回目の今回は、僕が思う長崎弁の魅力を語ってみたいと思います。

僕自身、生まれも育ちも長崎で、長崎のことばにはずっと慣れ親しんでいます。普段から使っていることばだけに愛着というものが勿論あるのですが、長崎のことばには、歴史やストーリーが感じられるのです。

古くからそこに住んでいた人たちの生活の中で受け継がれてきたことばが、今でも使われ続けていること。それだけでも、すごいことなのではと僕は思っています。

例えば、長崎に伝わる「凧」。長崎では、「ハタ」と呼びます。一説では江戸時代に伝わったとされる「ハタ」は、当時の長崎っ子を熱狂させました。
現在でも、毎年春には「長崎ハタ揚げ大会」という行事が長崎市の唐八景や金比羅山、稲佐山、そして風頭山で開催されています。

僕にとって長崎の方言は、長崎に住む人々の日常に寄り添うことばのように思えたのです。

また、僕が驚いたのは、長崎の方言は少なくとも17世紀からその歴史をたどることができるということ。前に述べた「凧(ハタ)」もそうですが、普段あまり意識せずに使っていることばの中には、少なくとも江戸時代からは使われ続けているものもある…と考えると感動してしまいました。

ちなみに、このブログで紹介した「よか」や「ずっきゃんきゃん」(記述では「ずんきゃんきゃん」)は19世紀前半頃に成立したとされる『筑紫方言』に記述がされています。

当時は使われていたものの、現在では耳にすることがなくなったことばもあると思いますが、長崎のことば一つひとつに思いを馳せてみることが、本当に楽しいのです。

拙い文章だったかもしれませんが、読んでいただきありがとうございました。ここでは語りつくせないところもありますが、これからも長崎のことばについて楽しく触れてもらえるように書き続けていきます。


・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p198.

2015/01/23

長崎弁の話 その9。 ~普段の会話で最も耳にする長崎弁かもしれない?対格助詞の「ば」~

今回も、長崎弁の文法的な話をしたいと思います。過去に何度か、長崎弁のなかでも耳にすることが多いことばを中心にピックアップしてきました。今回紹介することばは、タイトルでも書きましたが、「普段の会話で最も耳にすることが多いのでは…?」と個人的に思っています。

例えば…
「なんばしよっと?」(なにをしているの?)

「よーっと話ば聴いてね!」(しっかり話を聴いてね!)

「今度映画ば観に行こうで」(今度映画を観に行こうよ)

「宿題ば忘れたけん、先生にがられたばい」(宿題を忘れたから、先生に叱られたよ)

「その本ば読んだら、ヒントの得られるかもしれんよ」(その本を読んだら、ヒントが得られるかもしれないよ」

などなど…、今回はいつになく例文が多いのですが、「例文ば考えて」と言われたらいくつも出てきそうな勢いになります。

もうお分かりかと思いますが、そのことばは、「ば」のことです。主に、動作の目標や対象を示すために使われる助詞(対格助詞)で、標準語では「を」に相当します。

…と言われてみると、「あ、意外とそうかも!?」とか、「『ば』を使わん日はなかばい!」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?長崎に在住されたことのある方は、多分ピンとくるものがあったのではと思います。
文法的に使われるということが要因にあげられるかもしれませんが、「ば」という方言が、長崎に住んでいる人にとって、普段の会話で根付いていることばの一つであることを改めて認識しました。

もちろん、普段の会話で使われる長崎の方言は、以前紹介したことば(「ばい」・「たい」「に」など)以外にもまだたくさんあります。普段から使われることばだからこそ感じられる魅力を、これからもこのブログで伝えていきたいと思います。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p23.

2015/01/12

長崎弁の話 その8。 ~長崎の方言における「の」の使い方~

間隔がだいぶ空いてしまいましたが、2015年初めての投稿となりました。本年も当ブログをどうぞよろしくお願いします。

今回は、長崎弁の文法に関する話をしたいと思います。今回紹介するのは、助詞の「の」です。
まずここではそれについて紹介する前に、標準語で用いられる助詞の「の」について確認をしておきたいと思います。

標準語で用いられる方は、「私本」や「父腕時計」など、所有を表す際に使われたり(格助詞)、「あ街」、や「当本人」、などのように体言(名詞や代名詞の類です)を修飾するために使われたりします(連体修飾語)。

小難しい話になってしまいましたが、とりあえず使い方を確認していただけたら大丈夫です。

さて、ここからが本題。長崎弁では、先ほど紹介したものとは異なる用法があるのです。では、一体どう使われるかというと…

A:「あれ?テーブル上に置いとったケーキいっちょん見当たらん!」

B:「あ~、さっき兄ちゃん食べよったばい!」
 
青色の太字で書いてある方が標準語の用法で、赤色の太字の方が、長崎弁での用法です。この短い会話を読んでみて、後者の「の」がどう使われるか分かりましたか?



さっそく解説ですが、後者の「の」主語に付く助詞(主格助詞)として使われるのです。これは、標準語における「が」に相当します。

先ほどの会話を標準語にすると…

A:「あれ?テーブルの上に置いていたケーキがまったく見当たらない!」

B:「あ~、さっき兄ちゃんが食べていたよ!」

となります。この主格助詞の「の」ですが、発音上の便宜の為「ん」が使われることもあります。ここで、もう一つ例文を紹介しておきます。

「雪積もったら、バス運休するかもしれん。」(雪が積もったら、バスが運休するかもしれない。)

余談ですが、僕が高校生の頃、積雪で路線バスの運行区間の一部が運休した影響で、通っていた高校が臨時休校になったこともありました。長崎市内での積雪は、公共交通機関だけでなく学校入試の開催等にも影響する場合があるので、受験が間近になると天気予報についても気が気でなかったのを覚えています。

ということで、今回の長崎弁の話はここまで。これからも時々長崎弁の文法的な話題をピックアップしていきます!


 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p22.

2014/12/18

長崎弁の話 その7。 ~「じげもん」ということばから感じたこと~

約3週間ぶりの更新となってしまいました。今回は久々に、長崎弁の話をしたいと思います。

このブログで長崎にまつわる好きなこと・ものについて書き始めてから約4ヶ月。その中で、僕が話題にした内容の約半分は「長崎弁」のことなのですが、地元長崎のことばについて書いたり調べたりいるうちに、長崎のことばへの愛着がさらに湧いてくるようになりました。

そういった中で、最近ますます好きになった長崎のことばがあって、今回はそれを紹介したいと思います。そのことばとは、「じげもん」です。

「じげもん」は、「地元の人・地元の物」という意味で使われることばです。おそらく、テレビやラジオで長崎の特産品が紹介される場面などで、このことばを耳にされることがあるのではないでしょうか。

最近なぜ「じげもん」ということばが好きになっているかというと、自分が生まれ育ったまちに、「地元」を表現する方言があるということ。そして、そのことばが今も使われ続けていること。
住んでいるまちや、風景、その場所にまつわる歴史、他には自然など…、あげるとキリがないですが、「じげもん」ということばからは、それらに対する愛情を感じるのです。

長崎のことばは、僕自身にとって切っても切り離せないものになっていますが、「じげもん」はこれからも大切にし続けたいことばの一つです。


さて、ブログの更新ですが、個人的な都合もあり今年はこれで最後にします。読んで下さった皆様本当にありがとうございました。 次の更新は来年の1月に。

来年も、このブログをどうぞよろしくお願いします。




2014/11/19

長崎弁の話 その6。 ~長崎弁の方向助詞~

つい最近まで、長崎の方言だと思いもしなかったことばがありまして…

ある日、実家に帰省していた時のこと。父と僕との会話の一部。

父:「明日の予定はもう決まっとっとね?」

僕:「午前中は図書館に行くつもりばい。」

長崎弁でのやり取りですね。さて、ここでちょっとしたクイズを出します。
僕の一言の中にある長崎の方言は、一体何でしょうか?



とりあえず、少し考えてみて下さいね。…ではでは、お分かりになりましたでしょうか?



一つ目は、「ばい」。これはすぐに分かったのではと思います(このブログでも取り上げていることばなので、気になる方はこちらも読んでみてくださいね)。
「あれ、ちょっと簡単過ぎでは…?」と思われたかもしれませんが、長崎の方言があともう一つあります。さて、何でしょう…?



答えは、「に」。これは気づいた方とそうでない方と両方いらっしゃると思います。
前フリが長くなって恐縮ですが、今回紹介するのは、長崎弁の「方向助詞」です。標準語で方向を表す助詞は「へ」ですが、長崎の方言では「に」と「さん」が相当します。…決して、数字の話じゃないですよ!
一つ目の、「に」については、僕自身「え、これって長崎弁ね!?」と思ったほどで、むしろ標準語と勘違いしていたほど。

もう一つの方向助詞、「さん」が長崎の方言であることは知っていたのですが、僕はあまり使うことがありません。あくまで個人的な印象ですが、ご年配の方が使われているのを耳にすることが多く、どちらかいうと「さん」の方がより方言らしく感じられます。では、どう使われるかというと…

「今日はどこさんお出かけになるとね?」(今日はどこへお出かけされるの?)

「向こうさん行ったらふとか道のあるけん、すぐ分かるばい」(向こうへ行ったら大きい道があるから、すぐ分かるよ)
 
「さん」ということばには「敬称」のイメージがあると思うので、県外の方からすると不思議な響きを感じるのではないでしょうか。

今回紹介したことばも、頭の片隅に入れておいていただけると長崎を旅行されるときに会話のヒントになると思います。ということで、今回は方向助詞の話でした!


・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p23.

2014/11/13

長崎弁の話 その5。 ~尊敬表現のこと~

今回で5回目になりました、長崎弁の話です。今回は、文法的表現の一つについてピックアップしていきます。

長崎の方言には、相手への「尊敬」を表すために用いられることばがあります。僕自身も、普段の会話だけでなく、仕事でも使うことが多いことばです。 と言うのも、仕事柄、長崎弁の方がコミュニケーションがとりやすい場面があるためです。

さて、尊敬を表すことばにいったいどんなものがあるかというと…

主に、「~なさる」・「~なる」・「~(ら)す」・「~(ら)る」の4つです。

これらの中で、僕自身は「~らす」と「~なる」の2つについては、普段の会話で耳にするだけでなくよく使います。特に使うことが多いのは、「~らす」です。

ではどう使うのかというと…、例を2つ紹介します。


1.

A:「先輩はいつ頃らすと?」 (先輩はいつ頃来られるの?)

B:「たしか、12時頃ばい。」 (たしか、12時ごろだよ。)


「こらす」と聞いて、もしかしたら「凝らす」という言葉が頭に浮かぶかもしれませんが、間違えないように気を付けてくださいね。ここでの「こらす」は、「来る」の尊敬を表す言葉と覚えていただけたらと思います。

長崎を観光された際に、地元の方から「どこからこらした(きなさった)とね?」(どこから来られたの?)などと訊かれることもあるかもしれませんが、そのときは上のやり取りを思い出してもらえたら会話がしやすくなるかと思います。

2.

A:「あの人は何ば飲みよんなると?」 (あの人は何を飲んでいらっしゃるの?)

B:「紅茶ば飲みよらすとよ。」 (紅茶を飲んでいらっしゃるよ。)


「~なる」も「~らす」も本当に耳にする場面が多いんです。それだけに、色々な言葉と組み合わさると「?」マークが浮かぶかもしれませんね。

先ほど、尊敬を表すことばは4つあるということを話しましたが、実は、それぞれ敬意の高さが異なります。

敬意の高い方から、「~なさる」>「~なる」>「~(ら)す」・「~(ら)る」という順番になります。同じ尊敬表現といえど、それぞれ敬意の高さに違いがあることには驚きました。

ということで、今回は長崎弁の尊敬表現について簡単に話をしました。まだまだ長崎弁については色々書いていきますが、長崎を訪れる際に、このブログで触れた長崎弁の話を少しでも役立ててもらえたら嬉しく思います。


・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p18-19.

2014/11/07

長崎弁の話 その4。 ~「オガミタロー」って何だ?~

久々に、長崎弁の話です。今回紹介するのは、僕自身も最近まで知らなかったことば。初めて耳にしたときのインパクトが強烈で、いつか紹介したいと思っていたことばです。

そのことばとは…、「オガミタロー」

「…え、誰?」と思った方、これもちゃんとした長崎弁なんです!
と言われても、いったい何のことかチンプンカンプンですよね。
ある昆虫のことを「オガミタロー」と呼ぶのですが、一体なんだと思いますか…?





その昆虫とは…、「カマキリ」のことなんです!

あくまで推測ですが、両前足をこすり合わせる姿が、何かを拝んでいるように見えたのかもしれません。

「カマキリ」の長崎県内での呼び方については、西島宏氏(1956)によって研究がされているのですが、それによると、「オガミタロー」という方言語彙は、東彼・大村・長崎・西彼の一部に分布しているという考察結果となっていました。

それでは、他の地域ではどうかというと…ここで紹介するとキリがありません。というのも、カマキリの方言語彙が「オガミタロー」の他に少なくとも約20種類はあるためです。「カマキリ」の呼び方だけでもこんなに種類があるとは!このことにもまた驚かされました。

ちなみに、カマキリのことを英語では、“praying mantis”といいます。“pray”は、日本語で「祈る」という意味ですね。
「拝む」と「祈る」。意味が似通った2つのことば。 カマキリが両前足をこすり合わせる仕草は、外国でも「祈り」を連想させるものがあったと考えてみると、言葉の不思議さを改めて感じます。

他にも、また異なる発見が。秋の季語に、「おがみたろう」が、あるのです。もちろん、カマキリのことです。
「おがみたろう」が季語ということを知り、「この言葉が方言として一部の地域で使われるようになるまでには、何百年にもわたる長い年月があったのだろうか…」ということも少し考えたりしました(これもあくまで、個人の推測です)。

話が色々な方向に脱線してしまいましたが、 長崎のことばについて知ることが意外な発見につながっていて面白かったです。まだまだ色々調べてみたいと思います。


・参考文献…西島宏(1956):長崎県方言語彙の一考察 ―その分布を中心として― p53.

2014/09/30

長崎弁の話 その3。 ~ちょっと不思議な(?)方言「よか」~

今回は、長崎弁の話。ある形容詞をピックアップしていきます。

…と、その前に。ここで長崎の方言における形容詞の特徴について、ちょっとした説明をしておきますね。

長崎の方言における形容詞について、著:坂口至氏「長崎県のことば」(明治書院)では、般的に形容詞の終止形には、「カ」を用いる(「カ語尾」)という特徴があることがあげられています(ちなみに、対馬では「イ語尾」が用いられる とのことです)。

例えば、「楽しい」は「楽しか」、「おもしろい」は「おもしろか」、「暑い」は「暑か」、といった活用形になります。 このことを、頭の片隅にでも良いので覚えていただけたらと思います。

最近、「県外の方が意味を理解するのに戸惑ってしまうのでは?」と思うようなことばがあることに気が付きました。それが、「よか」。僕自身もよく使いますが、本当に使う場面が多いんですね。

たとえば…、

例1.

A:「明日の天気はどげんね?」(明日の天気はどう?)

B:「明日は晴れるげな、日傘ば持って行ったらよかばい。」(明日は晴れるそうだよ。日傘を持って行ったら良いよ。)

ここでは、「良い」という意味で「よか」が使われています。これは前述の長崎弁における形容詞の特徴からもピンとくるのではと思います。さて、「え、戸惑うことがあるの?」と疑問に思った方がいらっしゃったのでは…?

ということで、次のやり取りです。

例2.

A:「カステラば貰ったとばってん食べる?」(カステラを貰ったんだけど食べる?)

B:「今お腹いっぱいけんがよかばい。」(今お腹いっぱいだからいらないよ。)

ここで使われている「よか」は、決して「良い」という意味ではありません。ここでは、「いらない」という意味と考えてもらえたらと思います。驚いた方もいらっしゃるかと思いますが、「必要がない」ということを伝える場合にも、「よか」を使います。

2つの短いやり取りを読んでお気づきかと思いますが、それぞれのやり取りで、「よか」の意味が異なっています。

ここでは文章で表しているので、「よか」の意味を推測しやすかったかもしれませんが、もし県外の方が実際に耳にすることがあれば、「?」マークが頭に浮かんでくるかもしれませんね。

肯定的な意味で使われたり、否定的な意味で使われたり…、普段から長崎弁で話すことが多い僕も、この言葉については不思議だなと思わずにはいられなくなりました。

長崎のことばの面白さ、不思議さにますます惹かれていきそうです。

2014/09/07

長崎弁の話 その2。 ~「ずっきゃんきゃん」・「とっきゃんきゃん(とんきゃんきゃん)」~

今回も、長崎弁の話をしたいと思います。前回は「ばい」と「たい」。日常会話でよく使われる言葉をピックアップしてみました。

さて、今回は…地元長崎の方でもあまり耳にする機会がないのでは?と思うような長崎弁を紹介します。

早速ですが、皆さんは、「ずっきゃんきゃん」あるいは、「とっきゃんきゃん(とんきゃんきゃん)」という長崎弁を聞いたことってありますか?

「…え、それって本当に方言なの!?」と思われた方がいらっしゃることと思いますが、ちゃんとした長崎弁です!では、いったい何のことだと思いますか?

…といきなり言われても何のことやら、ですよね。ヒントは、 花火大会などでお父さんが子供にしているところをたまに見かけることがあります。…ヒントになってなかったらごめんなさい(汗)。

では、いったいどういう意味なのかというと…


「ずっきゃんきゃん」や「とっきゃんきゃん(とんきゃんきゃん)」は、「肩車」のことなんです!


多分、ヒントがなかったら意味が全く想像のつかない方言なのでは?と思います。

僕自身が前から知っていたのは、「とんきゃんきゃん」だけなんですが、たぶん幼稚園生だったころまでは耳にしていたと思います。だいぶ前のことを思い出していると、家の近くを散歩中、父親に肩車をしてもらった頃が懐かしく感じられます。

肩車をしてもらわなくなった頃ぐらいから 、その言葉を聞く機会は次第に減って、もう長いこと耳にしなくなったんですが、最近あるラジオ番組で十数年振りに耳にしたのです。

そのとき、「あー、すごく懐かしい長崎弁だ!」、と思わずにはいられませんでした。

ちなみに、どうして「肩車」のことを「ずっきゃんきゃん」や「とっきゃんきゃん」などと呼ぶようになったのかは僕自身もよく知らないので、その理由も非常に気になるところです。

それでは、今回はここまで。まだまだ紹介したい長崎弁がいろいろです。

2014/08/30

長崎弁の話 その1。 ~「ばい」と「たい」の違い~

約1週間ぶりの投稿です。さて今日は、長崎弁の話です。

このブログでは、マイブームになっている長崎弁のことについても、色々とピックアップして書いていきます。

今回は、普段の会話でもよく使う方言、「ばい」「たい」の違いについて話したいと思います。

「ばい」と「たい」。文末に使われる長崎方言の代表といっても過言ではないと僕は思っています。
長崎県外在住の方も、おそらくこの2つの言葉は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

「…え、違いがあるの!?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
「ばい」と「たい」は、それぞれ場合によって使い分けることがあるんです!

ではではさっそく、その違いを短いやり取りを例に話していきたいと思います。

1.「ばい」

A:「あいから体調はどげん?」(あれから体調はどう?)

B:「今はだいぶ良うなったばい。」(今はだいぶ良くなったよ。)


2.「たい」

A:「寝坊して間に合わんやった!」(寝坊して間に合わなかった!)

B:「夜更かしばしたけんたい。」(夜更かしをしたからだ。)


かなりコンパクトなやり取りで大変恐縮ですが、とりあえず、言い方や響きが何となく違うなと感じてもらえたら幸いです。

「ばい」 が使われている方は穏やかに説明する感じ「たい」の方は何だかちょっぴりきつい言い方になっているような印象です(注:あくまで今回の例において、です)。

では、具体的にどう違うのか。著:坂口至氏「長崎県のことば」(明治書院)によると、「ばい」は 話し手の感情を直接に表し、自己の判断の確認や、それを穏やかに教示する場合に多く用いられる とあります。

一方、「たい」は客観性の強い事柄や自明の事柄を言明するときに用いられることが多い とあります。

たとえば、物事について自分自身の思った感想や気持ちを述べるときなどには文末に「ばい」が使われることが多くなり、物事について述べる際に、理由を特に説明をする必要性がないと思われる場合は、「たい」の方が多く使われると考えられますね。

実際に普段の会話を思い起こしてみると、僕自身、無意識に使い分けているんです。個人的な印象ですが、「ばい」のほうがどこか優しい響きになるような、そして「たい」のほうがちょっとだけ冷たい感じになるような気が。
もしかしたら、「あ、それ分かるかも!」という方もいらっしゃるのでは…?

文法的な話が入って小難しい感じになってしまいましたが、今回紹介した2つのことばのニュアンスは、実際に長崎弁での会話を聴いてみると掴めると思います!

長崎を訪れた際には、長崎の方言に触れてみるのも新鮮で面白いですよ!

それでは、今回はこの辺で。また色々ピックアップしていきます!