2015/06/27

長崎弁の話 その15。 ~電話に出らん…?・後編~

前回の続きになる、長崎弁の話。「出る」という動詞の活用形(未然形)が「出らん」という独特な変化をすることを紹介しました。そして、他の活用形でも長崎方言特有の変化があることにも触れたところで、前編は終了しました。今回は、後編です。

早速、ちょっとしたやり取りを例に紹介していきます。


A:「集合時間になったけど、C君がまだ来ないね。連絡はあった?」

B:「さっきも電話したばってん、いっちょん電話に出らんばい。」

 (ここまで、前回のやり取りと同じです)

A:「一体どうしたのかな、とりあえずもう少し待ってみよう。」

20分後…

C:「遅くなってごめん!寝坊してしまった!」

B:「なんやー、心配したばい。それに電話ぐらい出れさー。」(何だー、心配したよ。それに電話ぐらい出ろよー。 )

A:「僕も心配したよ。でもこれで何とか電車には乗り遅れずに済むね。」


それでは、今回もB君の一言に注目。命令形の活用が標準語と異なっていますね。長崎の方言では、「出ろ」ではなく「出れ」という活用になるのです。

他にも、「着る」、「起きる」、「見る」などでもやはり同様の現象が起こり、「着る」→「着れ」、「起きる」→「起きれ」、「見る」→「見れ」となります。

さて、前回と今回紹介している動詞の活用形の変化ですが、これは一部の動詞でしかみられないということも話しました。では、一体どんな動詞が当てはまるのかというと…

たとえば、先ほど紹介した「着る」。これは当てはまるのですが、同音異義語の「切る」はそれが当てはまらないのです。一体なぜか。「着る」と「切る」の活用の違いが重要なポイントになります。

その違いについてみていくと、「着る」の活用は「上一段活用」ですが、「切る」の活用は「五段活用」です。「切る」の未然形は「切らん」、命令形は「切れ」となります。さて、ここで思い出して下さい。長崎の方言では、「着る」の未然形が「着らん」、命令形が「着れ」になります。つまり、「着る」の未然形と命令形における活用が、「切る」の活用と全く同じになるのです。

文法的な言い方をすると、「上下一段活用の動詞での活用が、未然形と命令形でラ行五段活用になる」のです。これは、「一段活用のラ行五段活用化」と呼ばれるものです。

「出ん」が「出らん」という変化をするため、単純に未然形が「ん」ではなく「らん」を用いるだけかと思っていたら、調べてみると文法的にきちんと説明ができるとは…!方言、そしてことばの奥深さを改めて感じることになりました。

これまでの長崎弁の話の中でも最もマニアックな内容になりましたが、長崎の方言は調べてみると興味深い発見があります。皆さんも気になったことばがあれば、楽しく調べてみてはいかがでしょうか。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p15.

2015/06/17

長崎弁の話 その14。 ~電話に出らん…?・前編~

かなり間隔が空いての更新…。やや放置気味になってしまいすみません。

普段から何気なく使っていることばが、実は方言だった!ということに気付くたびに長崎の方言についてますます知りたくなる自分。それだけ普段から長崎弁に慣れ親しんでいるということかもしれません。

さて最近、ちょっと変わった特徴があることばの存在を知り、調べてみると文法的に興味深い内容だったので、今回はそれについて話します。

今回紹介するのは、「出る」ということばです。いたって標準語です。それに、長崎では異なる意味で使われるというわけでもないのですが、ある変化が特徴的なのです。今回は短い会話を例に説明します。


A:「集合時間になったけど、C君がまだ来ないね。連絡はあった?」

B:「さっきも電話したばってん、いっちょん電話に出らんばい。」(さっきも電話したけれど、まったく電話に出ないよ。)


さて、ここでB君の一言にご注目。かすかに違和感があるような…?ちょっと考えてみましょう。
文法的な話をしますが、動作の打消を表す助動詞(口語)には「ない」・「む(ん)」・「まい」があります。そして、これらの助動詞は、動詞の未然形に付きます。

ということは、標準語ならば「出ん」という活用になるはず。ところが、先ほどの会話では「出らん」という活用になっています。そう、これが長崎弁の特徴のひとつ。一部の動詞で、活用形によって活用が変わる現象がみられるのです。

ちなみに、「出る」の他には「着る」、「起きる」といった動詞などでも同じ現象がみられ、「着る」→「着らん」、「起きる」→「起きらん」、という活用になります。

ちょっと不思議な活用の変化ですが、「出る」や「着る」、そして「起きる」などの動詞は未然形以外でも特徴的な変化をします。一体どう変化するのか、ということについてはまた次回話したいと思います。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p15.