2014/11/27

長崎の伝統工芸品「ビードロ」 ~吹きガラス体験記~

僕自身がすごく好きな長崎の伝統工芸品、ビードロ。いわゆる、吹きガラスのことです。先日長崎へ帰った際に、ガラス工房「瑠璃庵」さんで吹きガラス体験をさせていただいたのですが、今回はその体験記です。

吹きガラス体験をしたいと思ったきっかけは約1年半以上前のこと。会社の方の還暦祝いのプレゼントを求めて「瑠璃庵」さんを訪れた際、作品を眺めているうちに、鮮やかな発色をした様々なビードロに魅了されました。
また、そのとき吹きガラス体験をされている方がいらっしゃったのですが、しばらくその様子を観ているうちに、「自分もお洒落なマイグラスを作ってみたい!」と思うようになったのです。

ということで、ここからは僕自身の吹きガラス体験の様子を少しですがお話ししますね。

まずはガラスを窯の中から取り出していくのですが(この作業はお店の方にしていただきました)、窯の中の温度は何と、約1100℃(!)にもなるとのこと。少し離れたところから観ていましたが、この段階で早くも緊張しました。

そして、いよいよ吹きざおに息を吹いてガラスを膨らませていくのですが、このとき、さおをクルクル回転させながら息を吹かなければいけません。ずっと息を吹き続けるのはさすがに大変なので、息継ぎも必要です。ただし、息を吹きかけることに意識が向き過ぎると、さおを回転させる手が止まってしまい失敗につながる可能性もあるので、複数のことを同時に意識しながらの作業になりました。

それともう一つ。吹きざおの下側に触れると高温の為火傷してしまうので、さおの上側を持つようにします。これも注意が必要です。

窯の中にガラスを入れて形を大きくして、また息を吹いて、ガラスがある程度形になったら、水で濡らした布にあてて形を整えて…という作業を繰り返しました(1枚目の写真は、息を吹いてガラスを膨らませている最中の僕です)。


僕はグラスを作ることにしていたのですが、その際に、大きなピンのような道具で口の部分を拡げていく作業が必要になります。最初はピンの部分を閉じた状態にして、徐々にピンを開いてガラスの口を拡げていきます。
この作業は、グラスの形を左右するのでかなり重要です。そのため、この作業が最も緊張したのですが、それにはもう一つ理由が。

それは、僕が左利きであるということ。一体どういうことかというと、作業台は右利き用に設置されているためなのです。利き手が左だからといって、左手で道具を持って作業することはできません。写真でもお分かりかと思いますが、道具を持つ手は右。
「どうかうまくいきますように…!」と気持ちを込めながら口の部分を拡げていきました(2枚目の写真がその様子)。

利き手ではないこともあって、やや力んでしまい、思うように道具を使うことができたという実感があまりなかったのですが、口の部分がちゃんと形になったときはとりあえず一安心でした。
吹きガラスづくりで体験させていただいた作業の多くは、複数のことを同時に意識しながら行うのですが、左手と右手でそれぞれ異なる動作をしないといけない場面は特に気が抜けませんでした。

翌日の午後には完成したグラスの受け取りができるということだったので、ワクワクしながら翌日を待つことに…。

そして、完成品がこちら!お店の方々の丁寧な説明とレクチャーのおかげで、素敵な作品が出来上がりました!


完成品を初めて見たときの嬉しさは、本当にひとしおです!ずっと大切にしたいグラスになりました!

今回の体験記でお話しした作業はほんの一部ですが、吹きガラス体験の雰囲気が、読んで下さった皆さん伝わったなら大変嬉しいです。きっと旅の思い出にもなると思いますので、長崎へ観光されたときに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか(ちなみに、「吹きガラス体験」などの体験メニューは事前の予約が必要です)。


追記:吹きガラス体験の写真2枚につきましては、「瑠璃庵」のご主人に撮影をしていただいたもので、当ブログでの使用についてもご主人より快く了承をいただきました。この場を借りて、誠に御礼申し上げます。

2014/11/19

長崎弁の話 その6。 ~長崎弁の方向助詞~

つい最近まで、長崎の方言だと思いもしなかったことばがありまして…

ある日、実家に帰省していた時のこと。父と僕との会話の一部。

父:「明日の予定はもう決まっとっとね?」

僕:「午前中は図書館に行くつもりばい。」

長崎弁でのやり取りですね。さて、ここでちょっとしたクイズを出します。
僕の一言の中にある長崎の方言は、一体何でしょうか?



とりあえず、少し考えてみて下さいね。…ではでは、お分かりになりましたでしょうか?



一つ目は、「ばい」。これはすぐに分かったのではと思います(このブログでも取り上げていることばなので、気になる方はこちらも読んでみてくださいね)。
「あれ、ちょっと簡単過ぎでは…?」と思われたかもしれませんが、長崎の方言があともう一つあります。さて、何でしょう…?



答えは、「に」。これは気づいた方とそうでない方と両方いらっしゃると思います。
前フリが長くなって恐縮ですが、今回紹介するのは、長崎弁の「方向助詞」です。標準語で方向を表す助詞は「へ」ですが、長崎の方言では「に」と「さん」が相当します。…決して、数字の話じゃないですよ!
一つ目の、「に」については、僕自身「え、これって長崎弁ね!?」と思ったほどで、むしろ標準語と勘違いしていたほど。

もう一つの方向助詞、「さん」が長崎の方言であることは知っていたのですが、僕はあまり使うことがありません。あくまで個人的な印象ですが、ご年配の方が使われているのを耳にすることが多く、どちらかいうと「さん」の方がより方言らしく感じられます。では、どう使われるかというと…

「今日はどこさんお出かけになるとね?」(今日はどこへお出かけされるの?)

「向こうさん行ったらふとか道のあるけん、すぐ分かるばい」(向こうへ行ったら大きい道があるから、すぐ分かるよ)
 
「さん」ということばには「敬称」のイメージがあると思うので、県外の方からすると不思議な響きを感じるのではないでしょうか。

今回紹介したことばも、頭の片隅に入れておいていただけると長崎を旅行されるときに会話のヒントになると思います。ということで、今回は方向助詞の話でした!


・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p23.

2014/11/13

長崎弁の話 その5。 ~尊敬表現のこと~

今回で5回目になりました、長崎弁の話です。今回は、文法的表現の一つについてピックアップしていきます。

長崎の方言には、相手への「尊敬」を表すために用いられることばがあります。僕自身も、普段の会話だけでなく、仕事でも使うことが多いことばです。 と言うのも、仕事柄、長崎弁の方がコミュニケーションがとりやすい場面があるためです。

さて、尊敬を表すことばにいったいどんなものがあるかというと…

主に、「~なさる」・「~なる」・「~(ら)す」・「~(ら)る」の4つです。

これらの中で、僕自身は「~らす」と「~なる」の2つについては、普段の会話で耳にするだけでなくよく使います。特に使うことが多いのは、「~らす」です。

ではどう使うのかというと…、例を2つ紹介します。


1.

A:「先輩はいつ頃らすと?」 (先輩はいつ頃来られるの?)

B:「たしか、12時頃ばい。」 (たしか、12時ごろだよ。)


「こらす」と聞いて、もしかしたら「凝らす」という言葉が頭に浮かぶかもしれませんが、間違えないように気を付けてくださいね。ここでの「こらす」は、「来る」の尊敬を表す言葉と覚えていただけたらと思います。

長崎を観光された際に、地元の方から「どこからこらした(きなさった)とね?」(どこから来られたの?)などと訊かれることもあるかもしれませんが、そのときは上のやり取りを思い出してもらえたら会話がしやすくなるかと思います。

2.

A:「あの人は何ば飲みよんなると?」 (あの人は何を飲んでいらっしゃるの?)

B:「紅茶ば飲みよらすとよ。」 (紅茶を飲んでいらっしゃるよ。)


「~なる」も「~らす」も本当に耳にする場面が多いんです。それだけに、色々な言葉と組み合わさると「?」マークが浮かぶかもしれませんね。

先ほど、尊敬を表すことばは4つあるということを話しましたが、実は、それぞれ敬意の高さが異なります。

敬意の高い方から、「~なさる」>「~なる」>「~(ら)す」・「~(ら)る」という順番になります。同じ尊敬表現といえど、それぞれ敬意の高さに違いがあることには驚きました。

ということで、今回は長崎弁の尊敬表現について簡単に話をしました。まだまだ長崎弁については色々書いていきますが、長崎を訪れる際に、このブログで触れた長崎弁の話を少しでも役立ててもらえたら嬉しく思います。


・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p18-19.

2014/11/07

長崎弁の話 その4。 ~「オガミタロー」って何だ?~

久々に、長崎弁の話です。今回紹介するのは、僕自身も最近まで知らなかったことば。初めて耳にしたときのインパクトが強烈で、いつか紹介したいと思っていたことばです。

そのことばとは…、「オガミタロー」

「…え、誰?」と思った方、これもちゃんとした長崎弁なんです!
と言われても、いったい何のことかチンプンカンプンですよね。
ある昆虫のことを「オガミタロー」と呼ぶのですが、一体なんだと思いますか…?





その昆虫とは…、「カマキリ」のことなんです!

あくまで推測ですが、両前足をこすり合わせる姿が、何かを拝んでいるように見えたのかもしれません。

「カマキリ」の長崎県内での呼び方については、西島宏氏(1956)によって研究がされているのですが、それによると、「オガミタロー」という方言語彙は、東彼・大村・長崎・西彼の一部に分布しているという考察結果となっていました。

それでは、他の地域ではどうかというと…ここで紹介するとキリがありません。というのも、カマキリの方言語彙が「オガミタロー」の他に少なくとも約20種類はあるためです。「カマキリ」の呼び方だけでもこんなに種類があるとは!このことにもまた驚かされました。

ちなみに、カマキリのことを英語では、“praying mantis”といいます。“pray”は、日本語で「祈る」という意味ですね。
「拝む」と「祈る」。意味が似通った2つのことば。 カマキリが両前足をこすり合わせる仕草は、外国でも「祈り」を連想させるものがあったと考えてみると、言葉の不思議さを改めて感じます。

他にも、また異なる発見が。秋の季語に、「おがみたろう」が、あるのです。もちろん、カマキリのことです。
「おがみたろう」が季語ということを知り、「この言葉が方言として一部の地域で使われるようになるまでには、何百年にもわたる長い年月があったのだろうか…」ということも少し考えたりしました(これもあくまで、個人の推測です)。

話が色々な方向に脱線してしまいましたが、 長崎のことばについて知ることが意外な発見につながっていて面白かったです。まだまだ色々調べてみたいと思います。


・参考文献…西島宏(1956):長崎県方言語彙の一考察 ―その分布を中心として― p53.