2015/07/30

長崎弁の話 その17。 ~夏場ならでは?「ぬっか」という方言~

昨日、九州北部地方もついに梅雨明けが発表されましたね。

今でも気温が高い日が続いていますが、夏はまだまだこれから。僕が住んでいる佐世保の今日の天気は、晴れ。いつものように職場へ向かおうと家のドアを開け、外に出て思わずつぶやいたひとこと。

「今日もぬっかねー…」

この季節になると、「ぬっか」ということばをあちこちで耳にするようになります。日常の会話が、まずこのひとことから始まる、なんてこともよくあります。


 「朝からぬっかですね」(朝から暑いですね)

「ぬっかね~、夏の畑仕事はだんじゃなかよ」 (暑いねー、夏の畑仕事は大変だよ)


…といった感じです。
 
「ぬっか」は、長崎で使われる方言なのですが、「暑い」という意味で使われます。長崎に住んでいる方なら、ついつい口に出してしまったり、心の中で浮かぶことばではないでしょうか。

ちなみに、「ぬっか」にはちょっと違う意味があります。「暖かい」という意味でも使われることがあるんです。 たとえば、「こたつん中のぬっかね」という場合。この文章を標準語にすると、「こたつの中が暖かいね」となります。冬場や春先の「ぬっか」はこの意味の場合がほとんどだと思います。

「暑い」と「暖かい」。意味はそれぞれ異なりますが、どちらも「ぬっか」ということばで表現するところに方言の面白さを感じます。

もちろん、方言以外にも身近なことばに考えをめぐらせてみるのも、やってみると新しい気づきがありますよ。

2015/07/10

長崎弁の話 その16。 ~忙しいとついつい使ってしまう?長崎の方言「だんじゃなか」~

当ブログですが、現在は月2回のペースで更新しています。先月は主に仕事で忙しくなったこともあり、「6月は1回しか更新していないのでは…?」と思っていたら2回の更新。相変わらず地味に続いています。

更新は続いているものの、「次はどんな長崎の方言をチョイスしよう?いや、そろそろ次は話題を変えようか?」と考える時間は7月に入ってからもあまりなく、次の内容を決めかねている状態で飛び出した一言。

「まだ何ば書こうか考えるだんじゃなかね~…」

「だんじゃなか…?って長崎弁たい!今回はこれにしよう!」ということで何とテーマが決定。
今回は「だんじゃなか」ということばを紹介します。 ということで、まさかまさかの完全に思いつき(!)です。

さて、このことばは「~をする状態ではない」という使い方をしたり、「大変だ」とか「忙しい」という意味合いで使われたりします。

なので、上のテーマ決定のきっかけになった一言を標準語にすると、「まだ何を書こうか考える状態ではないな~…」となります。

「だんじゃなか」は下のようなやり取りで耳にすることも…?たとえば…


母:「宿題はもう済んだと?」(宿題はもう済んだの?)

子:「いや、まだいっちょんしとらん!」(いや、まだ全然してない!)

母:「宿題ばしとらんとにゲームばしよるだんじゃなか!」 (宿題をしてないのにゲームをしている場合じゃないでしょ!)

子:「えー、あとちょっとけん待ってさ!」(えー、あとちょっとだから待ってよ!)

母:「よかけんはよ宿題ばせんねー!」(いいから早く宿題をしなさいー!)


…といったやり取りの中で出てきたり、ちょっとした雑談の中で出てきたり…。「だんじゃなか」は、日常の会話でもたまに耳にしたり使ったりすることのあることばですが、仕事の繁忙期などの理由で忙しくなると、その頻度が増えることがあるかもしれません。「忙しいから、ついつい使ってしまう…」なんてことも。

ということで、今回もまた長崎弁の話でした。そろそろ長崎弁以外の話題も、ですね。

2015/06/27

長崎弁の話 その15。 ~電話に出らん…?・後編~

前回の続きになる、長崎弁の話。「出る」という動詞の活用形(未然形)が「出らん」という独特な変化をすることを紹介しました。そして、他の活用形でも長崎方言特有の変化があることにも触れたところで、前編は終了しました。今回は、後編です。

早速、ちょっとしたやり取りを例に紹介していきます。


A:「集合時間になったけど、C君がまだ来ないね。連絡はあった?」

B:「さっきも電話したばってん、いっちょん電話に出らんばい。」

 (ここまで、前回のやり取りと同じです)

A:「一体どうしたのかな、とりあえずもう少し待ってみよう。」

20分後…

C:「遅くなってごめん!寝坊してしまった!」

B:「なんやー、心配したばい。それに電話ぐらい出れさー。」(何だー、心配したよ。それに電話ぐらい出ろよー。 )

A:「僕も心配したよ。でもこれで何とか電車には乗り遅れずに済むね。」


それでは、今回もB君の一言に注目。命令形の活用が標準語と異なっていますね。長崎の方言では、「出ろ」ではなく「出れ」という活用になるのです。

他にも、「着る」、「起きる」、「見る」などでもやはり同様の現象が起こり、「着る」→「着れ」、「起きる」→「起きれ」、「見る」→「見れ」となります。

さて、前回と今回紹介している動詞の活用形の変化ですが、これは一部の動詞でしかみられないということも話しました。では、一体どんな動詞が当てはまるのかというと…

たとえば、先ほど紹介した「着る」。これは当てはまるのですが、同音異義語の「切る」はそれが当てはまらないのです。一体なぜか。「着る」と「切る」の活用の違いが重要なポイントになります。

その違いについてみていくと、「着る」の活用は「上一段活用」ですが、「切る」の活用は「五段活用」です。「切る」の未然形は「切らん」、命令形は「切れ」となります。さて、ここで思い出して下さい。長崎の方言では、「着る」の未然形が「着らん」、命令形が「着れ」になります。つまり、「着る」の未然形と命令形における活用が、「切る」の活用と全く同じになるのです。

文法的な言い方をすると、「上下一段活用の動詞での活用が、未然形と命令形でラ行五段活用になる」のです。これは、「一段活用のラ行五段活用化」と呼ばれるものです。

「出ん」が「出らん」という変化をするため、単純に未然形が「ん」ではなく「らん」を用いるだけかと思っていたら、調べてみると文法的にきちんと説明ができるとは…!方言、そしてことばの奥深さを改めて感じることになりました。

これまでの長崎弁の話の中でも最もマニアックな内容になりましたが、長崎の方言は調べてみると興味深い発見があります。皆さんも気になったことばがあれば、楽しく調べてみてはいかがでしょうか。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p15.

2015/06/17

長崎弁の話 その14。 ~電話に出らん…?・前編~

かなり間隔が空いての更新…。やや放置気味になってしまいすみません。

普段から何気なく使っていることばが、実は方言だった!ということに気付くたびに長崎の方言についてますます知りたくなる自分。それだけ普段から長崎弁に慣れ親しんでいるということかもしれません。

さて最近、ちょっと変わった特徴があることばの存在を知り、調べてみると文法的に興味深い内容だったので、今回はそれについて話します。

今回紹介するのは、「出る」ということばです。いたって標準語です。それに、長崎では異なる意味で使われるというわけでもないのですが、ある変化が特徴的なのです。今回は短い会話を例に説明します。


A:「集合時間になったけど、C君がまだ来ないね。連絡はあった?」

B:「さっきも電話したばってん、いっちょん電話に出らんばい。」(さっきも電話したけれど、まったく電話に出ないよ。)


さて、ここでB君の一言にご注目。かすかに違和感があるような…?ちょっと考えてみましょう。
文法的な話をしますが、動作の打消を表す助動詞(口語)には「ない」・「む(ん)」・「まい」があります。そして、これらの助動詞は、動詞の未然形に付きます。

ということは、標準語ならば「出ん」という活用になるはず。ところが、先ほどの会話では「出らん」という活用になっています。そう、これが長崎弁の特徴のひとつ。一部の動詞で、活用形によって活用が変わる現象がみられるのです。

ちなみに、「出る」の他には「着る」、「起きる」といった動詞などでも同じ現象がみられ、「着る」→「着らん」、「起きる」→「起きらん」、という活用になります。

ちょっと不思議な活用の変化ですが、「出る」や「着る」、そして「起きる」などの動詞は未然形以外でも特徴的な変化をします。一体どう変化するのか、ということについてはまた次回話したいと思います。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p15.

2015/05/24

長崎弁の話 その13。 ~「すーすーする」ってどういう状態??~

5月下旬の長崎。あちらこちらでアジサイがまちを彩り始め、いよいよ夏が訪れようとしています。衣替えを済ませた人も、きっとたくさんいるはず。

それでも、朝はまだ「すーすーする」日が続いています。目を覚ました時の最初のひとことが、「あー、何かすーすーする」なんてことも。

ということで、突然謎のことばが登場しました。「すーすーする」って…?何かの擬音語のようですが、これも長崎で耳にすることばの一つ。

「すーすーする」は、風が吹いて肌寒い様子を表すときに使います。気のせいかもしれませんが、5月頃や9〜10月頃には耳にする機会が多いことばです。

ということで、今回は久々の長崎弁の話でした!
朝「すーすーする」日はもう少し続きそうですので、どうか体調を崩されないようお過ごし下さいね。

2015/05/20

長崎の春の風物詩「長崎ハタ揚げ大会」レポート・後編

こんにちは、前回に引き続き「長崎ハタ揚げ大会」の様子を紹介していきます。前回は空中テープカットが行われたところなどをお伝えしました。今回は、大会のメインイベントとも言える競技ハタのことを紹介したいと思います!

凧揚げ競技と聞くと、凧をより高く揚げたかどうかを競うものと思われるかもしれませんが、長崎凧の競技は、それとは異なります。1対1で、相手の凧の糸を切り合う競技なのです!そのため、喧嘩バタと呼んだりもします。

糸を切り合うと書きましたが、なぜ糸が切れるのかというと、競技用の糸にはガラスの粉が刷り込まれているからです。この糸のことを、「ビードロヨマ」と呼びます。また、ハタの大きさも通常の物(16文ハタ)より大きいハタ(20文ハタ)を使用します。ちなみに、20文ハタのサイズは縦80cm、横96cmです。

競技ハタの試合は、午前中に予選が行われ、それに勝ち抜いた選手4名が午後からの決勝トーナメントに進む方式です。今回僕が観たのは、午後からの決勝トーナメント。

さて、競技ハタの見どころは、何と言っても1対1での駆け引きにあります!相手の糸を切るためにどうやって勝負を仕掛けていくか、また、仕掛けられた時に勝負に出るか、はたまた上手に躱していくか、といったところに勝負の面白さがあります。

今回は決勝戦の様子を動画でアップしています(その様子はこちらをご覧になってください)。ちなみに、今年の決勝はなんと約6分にもわたる熱戦!競技の途中途中で聴こえる観客のざわめきや歓声からも、その盛り上がりが窺えます。さすが、「長崎三大行事」!そして、決着がついたら、「ヨイヤー」の掛け声!この掛け声は、「長崎ハタ揚げ大会」、そして「長崎くんち」ならではのものです。

ハタ揚げ大会は、観るだけでも十分楽しめるので、ピクニックがてらに足を運んでみるのも良いですよ!ちなみに、凧は会場でも入手することができるので(ただし、数に限りがあるようです)、早めに会場へ来れる場合はあらかじめ用意していなくても大丈夫かと思います。

ということで、「長崎ハタ揚げ大会」レポートはここまで!今回ハタ揚げ大会を観に行ったことで、来年は観るだけじゃなく凧を揚げるという目標ができました。気が早いですが、来年が楽しみです。

2015/04/30

長崎の春の風物詩「長崎ハタ揚げ大会」レポート・前編


4月12日(日)、長崎市の唐八景公園で「長崎ハタ揚げ大会」が開催されました。毎年4月の日曜日に開催されるこの大会は、「長崎くんち」、「精霊流し」とならんで「長崎三大行事」の一つに数えられています。

江戸時代に伝わったとされる長崎の凧。この凧のことを、「ハタ」と呼びます。ハタの紋様は様々で、その種類は何と200種類以上!古くから長崎で親しまれているハタは、江戸時代に伝来してから長崎で盛んに行われていました。
ただ、あまりの熱狂ぶりでハタの取り合いが起こるなど、喧嘩の原因になってしまうことも!そのため、長崎奉行所からハタ揚げを取り締まるお触れを出されることもしばしばあったようです。

さて、今年は4月5日(日)に開催される予定だったのですが、雨天で12日に順延となりました。「今度こそ、どうか晴れますように…!」と願いながら迎えた当日は、風が少し強く、雲が多いながらも幸い雨は降らず、良いハタ揚げ日和となりました!

会場に到着したときには、すでに家族連れの方々や、観光客でいっぱい!外国から来られた方もいらっしゃいました。大人から子供まで、ハタ揚げに熱中!


大きさ、紋様も様々なハタが、空に舞う姿は眺めているうちに惹きつけられるものがあります。


しばらく会場全体を眺めていると、連凧が登場!

次から次へと凧が空へ…

「あれ、別の連凧?」と思われたかもしれませんが、実はつながっています!最終的には…、

空中でアーチ状に!そう、これはアーチ式の連凧!見事に揚がりました!

そして、連凧が揚がってから行われた開会セレモニーでは、ビードロヨマという糸を用いた凧で連凧の糸を空中でテープカットするという大技が!なぜビードロヨマを用いるかというと、ビードロヨマは普通の糸と違い、ガラスの粉を糸にすりこんであり、相手の糸を切ることができるからです。

ちなみに、長崎で行われるハタ揚げ競技は、1対1で相手のハタの糸を切り合う競技。そのため、競技でもビードロヨマが用いられます。

さて、連凧の空中テープカットですが、今回は動画でその様子をご覧ください。



ご覧いただけましたでしょうか?曇り空で糸が見えづらい状態でも、連凧との距離感や風の向き・強さなどを瞬時に読んでハタを操る技術は、まさに熟練の技!テープカットの瞬間が分かりづらいところもあり恐縮ですが、これはぜひとも生で観て欲しいと思っています!

というわけで、「長崎ハタ揚げ大会」レポート、前編はここまで!後編もどうぞよろしくお願いします。

2015/04/15

バリエーションは無限大!長崎の名物料理「トルコライス」

今回は、久々に長崎の料理を紹介します!

その料理は、「トルコライス」!長崎の名物と言える料理の一つです。一枚のお皿の上に盛り付けられる、ライス、野菜サラダ、トンカツ、スパゲティ。ん~、なんとも贅沢!今紹介したのは一例ですが、何が盛り付けられるかはお店によって様々!もう、ブログを書いているだけでお腹が空いてきそう…。 それでは、早速紹介したいと思います!

今回紹介するのは、「ニッキーアースティン」さんのトルコライスです。まず最初に驚いたのは、メニューの種類がものすごく多いこと!もちろん、トルコライスの種類もたくさんあります。「次来たときは何にしよう?」という楽しみも拡がります。

僕が選んだのは、301番の「チキンカツがメインのトルコライス」。このお店のメニューの多くには、番号が付けられています。お店の方がおっしゃるには、元々はトルコライスのお店ではなくサラダのお店で、トルコライスはお客さんからの要望で作られるようになったそうです。ちなみに、このお店で最初に作られたトルコライスが301番なのだとか。

さて、301番のトルコライス。一体どんなトルコライスかというと…!


メインのチキンカツ、サラダ、スパゲティ、カレーのかかったライスが一皿に!なかなかのボリュームです!
 
サラダの野菜は、キャベツ、コーン、ニンジン。コーンがたっぷりかかっているのが特徴です!ソースもさっぱりしていて食べやすかったです。

スパゲティは塩味がしっかりしているのでそのままいただくのも良いですし、ライスにかかっているカレーに絡めても美味しくいただけます。カレーはボリュームがありますが、辛めということもありスプーンがどんどん進みました。

そして、チキンカツ。揚げたてで、衣がサクサク!これも美味!

質も量も、本当に大満足のメニューだと思います!先ほども少し触れましたが、トルコライスは盛り付けのバリエーションの多さも魅力的!後日訪れたときには、302番のトルコライスをいただきました。

301番のトルコライスとの違いは…


チキンカツではなく、コロッケ!ちなみに、カレーコロッケとクリームコロッケの2種類が盛り付けられています。こちらはコロッケ好きの方にオススメしたいトルコライスです!

お店は、浜の町アーケードから「かます横丁」(通称:リカちゃん通り)へ入って、直進して1分弱の場所にあります。




いかがでしたか?長崎のトルコライス、本当にオススメです!今回紹介したのは、ほんの一部。お店も色々、盛り付けも色々あるので、ぜひお気に入りのトルコライスを探してみてくださいね!

2015/04/02

長崎弁の話 その12。 ~長崎で、「つー」というと?~

最近、「県外の方が一度聞いただけでは意味が全く想像できないような長崎の方言には何があるだろう?」ということを考えていたのですが、そのとき真っ先にこのことばが浮かびました。

「つー」ということば。皆さんはご存じでしょうか?これも、ちゃんとした長崎の方言です。
たとえば、「転んで擦りむいたところにつーのできた」というような使い方をします。たぶん、この例文で意味が分かったのではと思います。

長崎の方言で「つー」とは、「かさぶた」のこと。長崎県外の方が耳にされるとかなり驚かれそうなことばです。

ここからは僕も初めて知ったのですが、「つー」には他にも意味があります。
(柿などの)ヘタや、鱗のことも「つー」と呼ぶ、のだそうです。僕自身は、「つー」を「かさぶた」という意味でしか会話の中で用いたことがなかったので、この気づきはかなり新鮮でした。

ところで、「つー」で思い出したのですが、長崎ではアイゴという魚のことを「ヤー」と呼びます。
釣りをされている方に、「今日はヤーしか釣れんばい」と言われたら、その魚はアイゴのことです。

ちなみに、長崎では他にも、「バリ」や「ヤノウオ」と呼んだりもします。魚の呼び方も色々あってなかなか興味深いですね。

「つー」と「ヤー」。短いことばですがなかなかインパクトのある方言です。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p157.

2015/03/15

長崎弁の話 その11。 ~オノマトペのような長崎のことば「えんえん」~

約1ヶ月ぶりの更新になってしまいました。前回の更新以降、ブログを書く時間をなかなか確保できずにいましたが、また色々書き始めています。さて、今回は長崎弁の話をします。

ある日、長崎の実家へ帰っていた時のこと。家族で食事に行った後の帰り道でのやりとり(もちろん長崎弁ですよ!)。


僕:「僕が子供ん頃は家の近くばよく散歩しよったね」

父:「そうねー、よう一緒に歩いてたな。お前が子供ん頃、父さんは『えんえんして』ってあんまり言われんやったぞ」

僕:「本当ね?子供の頃のことけんがほとんど覚えとらん」

母:「お父さんがえんえんしたりとんきゃんきゃんしながら帰ってきたところはあんまり見たことなかよ」

僕:「へー、そうやったとねー…」


このやり取りの中に、今回紹介することばがあります。そのことばは、「えんえん」。まるでオノマトペのようなことばですが、そうではありません。一体どういう意味か、まずは上の会話をヒントに考えてみて下さいね。

…と言われても何のことかさっぱり、という方は、以前紹介した長崎のことば(「ずっきゃんきゃん」)をヒントに考えたらお分かりになるかもしれません。

さて、「えんえん」の意味は分かりましたか?


長崎のことばで「えんえん」は、「おんぶ」のことをいいます!「おんぶ」という言葉は、「背負う」の幼児語です。何と、長崎弁の語彙にも幼児語があるんですね。これは僕自身にとっても意外な気づきでした。

ちなみに、上のやり取りを標準語にすると…


僕:「僕が子供の頃は家の近くをよく散歩していたね」

父:「そうだね、よく一緒に歩いてたな。お前が子供の頃、父さんは『おんぶして』ってあんまり言われなかったぞ」

僕:「本当?子供の頃のことだからほとんど覚えてない」

母:「お父さんがおんぶしたり肩車しながら帰ってきたところはあんまり見たことないよ」

僕:「へー、そうだったのね…」


という会話になります。

「えんえん」ということばは、僕が子供の頃、主に両親や祖父母との会話で耳にしたり使ったりしていましたが、今は耳にする機会も使う場面もほとんどなくなってしまいました。「えんえん」の他には、「とんきゃんきゃん」もそうです。そのためかもしれませんが、この2つのことばには、どこか懐かしい響きがするのです。

今回のブログを書いていて、昔は使っていたけれど、今はほとんど使うことがなくなったことばにも、またいつか触れてみたいなと思うようになりました。機会があれば、また紹介します。

2015/02/14

お気に入りの場所 その1。 ~目と耳で楽しむ風頭公園~

今回は、いつもの「長崎弁の話」ではなく、僕がものすごく好きな場所の話をしたいと思います。その場所の魅力を、自分なりの視点で、皆さんにガイドするつもりで紹介します!

今回紹介するのは、風頭山(「かざがしらやま」と読みます)にある、「風頭公園」です!
長崎の山と聞いて、まず頭に浮かぶとしたら稲佐山、という方が多いかもしれませんが、今回はあえて、風頭山の風頭公園を紹介します!

と言うのも、初めて風頭公園を訪れたときの感動が今も強く印象に残っていて、いつかブログで必ず紹介したい!と思い、この場所を選びました。

風頭山は、長崎駅から車で約20分ぐらいの場所にある山で、毎年春には「長崎ハタ揚げ大会」が開催される場所でもあります。市街地からは、徒歩で行くこともできます。風頭山は、地元の人から身近に親しまれている山の一つです。徒歩以外の方法では、「風頭山」行きの路線バスが運行されているので、それを利用して訪れるのも良いと思います。ちなみに、先日訪れた際はバスを利用しました。

終点の「風頭山」バス停でバスを降りてから4~5分ほど歩いて、目的地の「風頭公園」に到着。


僕のお気に入りの場所は、「風頭公園」の展望台!展望台は、ここから約1~2分歩いた場所にあります。

まず風頭山の標高ですが、何と、152m!「あれ、標高が低いような?」と驚かれたかもしれませんね。でも、眺めは本当に良いんです!というのも、風頭山は遠くを眺めるのも近くを眺めるのもグッドな場所なのです!


上の写真の、左側に写っている橋は女神大橋。遠くを眺めていると、ついつい時間を忘れてしまいそうになります。


この写真は、ズームアップでの撮影ですが、実際に眺めていると長崎市街が本当に近く感じられます!どこに何があるのか探してみるのも楽しいですよ!

ちなみに、僕の場合は風頭公園から近い場所を眺めるのが好きで、「あの町はどのあたりにあるんだっけ?」ということや、「前に来たときと目に映る景色がどう変わっているのだろう?」ということを考えるのがここでの楽しみでもあります。
きっと、僕自身の地元が長崎市であることも一つの理由かもしれません。自分が住んでいた街の景色を眺めていると、ちょっと感傷的になってしまうことも。

さて、風頭公園では皆さんに楽しんでもらいたいと思うことがもう一つあります。それは、「音」。
「えっ、音??」と思う方もいらっしゃると思うので、説明しますね。

静かに景色を眺めていると、たまに、下の方からある「音」が聞こえてくるのです。その「音」は一体何かというと…、何と、路面電車の警笛!そう、市街地が本当に近いんです!ある場所を眺めていると、路面電車や車が走っている姿を、肉眼で観ることができるほど!
ちなみに、その場所がどこにあるかというと…、下の写真にそのヒントがあるのですが、これはぜひ皆さん探してみて下さいね。


ところで、風頭山からは市街地が近いということを先ほどから話していますが、市街地につながる坂(「ヘイフリ坂」といいます)を下ると、約10~15分ぐらいで市街地(寺町界隈)まで戻ってくることができます!他にも、亀山社中記念館や若宮稲荷神社へ行くことができるルートもあるので、帰りは歩いて市街地へ戻るのがオススメです。

山頂からの眺めというと、高いところからの絶景をイメージされるかもしれませんが、長崎市内の山は最も標高が高い山が八郎岳で、その標高は506m。他にも、前に少し紹介した稲佐山や、金比羅山、唐八景、鍋冠山などなど、身近に訪れることができる山が色々あります。

長崎の山の魅力は、夜景以外にも、色々な角度から見たり切り取ったりすることができる景色や、その距離感、そして親しみやすさにあると僕は感じています。

というわけで、風頭公園に来られた際には、眺めと音をぜひ楽しんでみて下さいね。ちょっと不思議な感覚で、色々な発見がありますよ!

2015/02/08

長崎弁の話 その10。 ~僕が思う長崎弁の魅力~

今回で長崎弁の話は、何と第10回目!現在のところ、話題の約半分以上が長崎弁というちょっと変わったブログですが、ここまで続けて来れました。

これまでの「長崎弁の話」シリーズでは、主に長崎弁の語彙や文法的な事柄について話してきました。ただ、その一方で「僕自身が思う、長崎のことばの魅力をあまり語れていないのでは…?」ということを最近感じていました。

そこでシリーズ10回目の今回は、僕が思う長崎弁の魅力を語ってみたいと思います。

僕自身、生まれも育ちも長崎で、長崎のことばにはずっと慣れ親しんでいます。普段から使っていることばだけに愛着というものが勿論あるのですが、長崎のことばには、歴史やストーリーが感じられるのです。

古くからそこに住んでいた人たちの生活の中で受け継がれてきたことばが、今でも使われ続けていること。それだけでも、すごいことなのではと僕は思っています。

例えば、長崎に伝わる「凧」。長崎では、「ハタ」と呼びます。一説では江戸時代に伝わったとされる「ハタ」は、当時の長崎っ子を熱狂させました。
現在でも、毎年春には「長崎ハタ揚げ大会」という行事が長崎市の唐八景や金比羅山、稲佐山、そして風頭山で開催されています。

僕にとって長崎の方言は、長崎に住む人々の日常に寄り添うことばのように思えたのです。

また、僕が驚いたのは、長崎の方言は少なくとも17世紀からその歴史をたどることができるということ。前に述べた「凧(ハタ)」もそうですが、普段あまり意識せずに使っていることばの中には、少なくとも江戸時代からは使われ続けているものもある…と考えると感動してしまいました。

ちなみに、このブログで紹介した「よか」や「ずっきゃんきゃん」(記述では「ずんきゃんきゃん」)は19世紀前半頃に成立したとされる『筑紫方言』に記述がされています。

当時は使われていたものの、現在では耳にすることがなくなったことばもあると思いますが、長崎のことば一つひとつに思いを馳せてみることが、本当に楽しいのです。

拙い文章だったかもしれませんが、読んでいただきありがとうございました。ここでは語りつくせないところもありますが、これからも長崎のことばについて楽しく触れてもらえるように書き続けていきます。


・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p198.

2015/01/23

長崎弁の話 その9。 ~普段の会話で最も耳にする長崎弁かもしれない?対格助詞の「ば」~

今回も、長崎弁の文法的な話をしたいと思います。過去に何度か、長崎弁のなかでも耳にすることが多いことばを中心にピックアップしてきました。今回紹介することばは、タイトルでも書きましたが、「普段の会話で最も耳にすることが多いのでは…?」と個人的に思っています。

例えば…
「なんばしよっと?」(なにをしているの?)

「よーっと話ば聴いてね!」(しっかり話を聴いてね!)

「今度映画ば観に行こうで」(今度映画を観に行こうよ)

「宿題ば忘れたけん、先生にがられたばい」(宿題を忘れたから、先生に叱られたよ)

「その本ば読んだら、ヒントの得られるかもしれんよ」(その本を読んだら、ヒントが得られるかもしれないよ」

などなど…、今回はいつになく例文が多いのですが、「例文ば考えて」と言われたらいくつも出てきそうな勢いになります。

もうお分かりかと思いますが、そのことばは、「ば」のことです。主に、動作の目標や対象を示すために使われる助詞(対格助詞)で、標準語では「を」に相当します。

…と言われてみると、「あ、意外とそうかも!?」とか、「『ば』を使わん日はなかばい!」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?長崎に在住されたことのある方は、多分ピンとくるものがあったのではと思います。
文法的に使われるということが要因にあげられるかもしれませんが、「ば」という方言が、長崎に住んでいる人にとって、普段の会話で根付いていることばの一つであることを改めて認識しました。

もちろん、普段の会話で使われる長崎の方言は、以前紹介したことば(「ばい」・「たい」「に」など)以外にもまだたくさんあります。普段から使われることばだからこそ感じられる魅力を、これからもこのブログで伝えていきたいと思います。

 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p23.

2015/01/12

長崎弁の話 その8。 ~長崎の方言における「の」の使い方~

間隔がだいぶ空いてしまいましたが、2015年初めての投稿となりました。本年も当ブログをどうぞよろしくお願いします。

今回は、長崎弁の文法に関する話をしたいと思います。今回紹介するのは、助詞の「の」です。
まずここではそれについて紹介する前に、標準語で用いられる助詞の「の」について確認をしておきたいと思います。

標準語で用いられる方は、「私本」や「父腕時計」など、所有を表す際に使われたり(格助詞)、「あ街」、や「当本人」、などのように体言(名詞や代名詞の類です)を修飾するために使われたりします(連体修飾語)。

小難しい話になってしまいましたが、とりあえず使い方を確認していただけたら大丈夫です。

さて、ここからが本題。長崎弁では、先ほど紹介したものとは異なる用法があるのです。では、一体どう使われるかというと…

A:「あれ?テーブル上に置いとったケーキいっちょん見当たらん!」

B:「あ~、さっき兄ちゃん食べよったばい!」
 
青色の太字で書いてある方が標準語の用法で、赤色の太字の方が、長崎弁での用法です。この短い会話を読んでみて、後者の「の」がどう使われるか分かりましたか?



さっそく解説ですが、後者の「の」主語に付く助詞(主格助詞)として使われるのです。これは、標準語における「が」に相当します。

先ほどの会話を標準語にすると…

A:「あれ?テーブルの上に置いていたケーキがまったく見当たらない!」

B:「あ~、さっき兄ちゃんが食べていたよ!」

となります。この主格助詞の「の」ですが、発音上の便宜の為「ん」が使われることもあります。ここで、もう一つ例文を紹介しておきます。

「雪積もったら、バス運休するかもしれん。」(雪が積もったら、バスが運休するかもしれない。)

余談ですが、僕が高校生の頃、積雪で路線バスの運行区間の一部が運休した影響で、通っていた高校が臨時休校になったこともありました。長崎市内での積雪は、公共交通機関だけでなく学校入試の開催等にも影響する場合があるので、受験が間近になると天気予報についても気が気でなかったのを覚えています。

ということで、今回の長崎弁の話はここまで。これからも時々長崎弁の文法的な話題をピックアップしていきます!


 ・参考文献…坂口至(1998):日本のことばシリーズ 42 長崎県のことば(明治書院) p22.